話してくれた人:
STSデジタル・ライター ウメザワ マサユキ
ファッション誌などのフリーライターを経てSTSデジタル所属。
聞き手:STSデジタル・ライター 祢津
── STSデジタルのライターコラムです。今回はライターがWEBサイト全体のテキストを一括で担当する際に、どのように書き分けを行うかについて。
ライターとして重要なテーマだと思います。インタビュー記事だけでなく、キャッチコピーや事業概要など、サイト上には多様な種類の文章が存在しますね。
── 具体例として、ウメザワさんが担当された採用サイトの全体ライティングについて、どうですか?
採用サイトのトップページに掲載するキャッチコピーをはじめ、経営者メッセージ、10本ほどの社員インタビュー(ソロおよびクロストーク形式)、事業紹介、さらに人事部からのメッセージまで、一括でライティングを担当しました。祢津さんにも数本、取材・執筆をご担当いただきましたね。
── 掲載箇所も多岐にわたりましたが、着手の順序は?
最初に手を付けたのは、トップページのキャッチコピーとその直下に続く導入テキストです。おそらく200字程度のボリュームでしたが、サイトを訪れたユーザーが最初に目にするキャッチコピーが定まらなければ、サイト全体の方向性も固まらないと考えていました。
── 最初のテキストが、全体の指針を定める役割を担うわけですね。
はい。複数の箇所にわたってテキストを書き進める中で、迷いが生じたときに立ち返る基準が必要です。サイト全体のテキストにおいて、その拠り所となるのはトップページ、中でも必ず全員の目に触れるキャッチコピーになると考えました。トップのテキストを早い段階で固めることができたため、後から方針がぶれて混乱するという事態も回避できました。
キャッチコピーを1行に絞り込む考え方
── では、実際に採用キャッチコピーを制作する際、まず何から取材を?
まずクライアントの製品を実際に使用させていただきました。いわゆるエイジングケアの化粧品で、50代前後の女性層を主な顧客とするスキンケアブランドでした。
── そう。製品サンプルをご提供いただいて、社内で実際に試しましたね。
それに加えて、クライアントの商品ページと代表挨拶のページを徹底的に読み込みました。事業に込められた思いを把握するためでもありますが、もう一つの目的は「そのブランドが使用している言葉の傾向を把握すること」でした。
── 言葉の傾向とは、具体的にどういったこと?
たとえば「きれい」というワード一つをとっても、漢字・カタカナ・ひらがなのどれを使うかによって印象が大きく異なります。また「きれい」を使うのか、「美しい」なのか「ビューティー」なのか「可愛い」なのか——その選択はブランドが構築したいイメージを反映していますし、クライアント自身の好みとも密接に関わっていると考えます。
使いたい言葉を単語レベルでピックアップした後、その製品が本質的に何のために存在するのかを自分なりに解釈しました。
── なるほど。完成したコピーには「明日も輝く女性たちの」というフレーズが使われていますね。
スキンケアとは、突き詰めれば「明日の自分に期待する行為」ではないかと考えたんです。今日一日しか生きるつもりのない人は、肌を整えようとは思わないはずです。肌を整えるという行為は、現在の自分よりさらに良くなりたいという意志、明日の自分への期待の表れだと解釈しました。そこから「明日」という言葉をキャッチコピーに用いることにしました。
── たとえば「未来」ではなく「明日」を選んだ理由はどこにあるのでしょう。
「未来」という言葉には技術的・抽象的なニュアンスがあり、100年先も含む広い時間軸を包含してしまいます。スキンケアはあくまでも個人の、自分自身の時間軸における行為です。もっとも身近で実感を伴う言葉として「明日」が適切と判断しました。また、当該サイトが採用サイトであることから、これから社会に踏み出す学生にとっても「明日」はイメージしやすいはずです。顧客も採用ターゲットも女性を中心としていましたし、その点でも言葉が機能しやすいと考えました。
── 顧客にとっての「明日」と、就職活動中の学生にとっての「明日」が重なるわけですね。確かに「未来」だと、学生向けに偏りすぎる印象があります。では「輝く」という表現の着想はどこから来たのでしょうか?
情報源として、商品レビューを大量に読み込みました。「顔が明るくなった」「肌のトーンが上がった」という声が多く見受けられ、スキンケアの目的がたんに素肌を整えることにとどまらず、その先にある「自信」「笑顔」「表情の変化」にもつながっていることがわかりました。顔が明るくなり、自信を持ち、自然と笑顔になる——それを一言で表すなら「輝く」ではないかと。
── 素肌のトーンアップと内面的な自信が重なるところで、「輝く」という表現が生まれたのですね。
はい。サイトのデザインでゴールドがキーカラーとして採用されていたことも、一つの判断材料でした。
── 正直に言えば、「明日・女性・輝く」の組み合わせ自体は、特段珍しいものではないと思うんです。美容に限らず、女性活躍推進や育児の文脈でも使われ得る表現ですよね。
しかし、そこに至るプロセスを辿ると、各ワードにクライアントの文脈と意味が紐づいている——だからこそクライアントから採用いただけたということですね。
表記レギュレーションは設けるべきか
── 実はキャッチコピーについては私も案を出していて、最終的にウメザワさんの案が採用されたんですよね。背景にある考え方を聞いて納得できました。
次に、サイト全体における書き分けについて。表記ルールや文体のレギュレーションは策定されましたか?
明確なレギュレーションはほとんど設けませんでした。細部まで詰めていくと、結局のところ完成しないものだという認識があります。クライアント側がブランドガイドラインとして既にルールを持っており、それを採用サイトに適用するケースなら話は別ですが、「一緒に作り上げていきましょう」という進め方は、実際にはあまり機能しないと感じています。きちんと完成したと実感できたレギュレーションは、これまで一度もないかもしれません。
── とはいえ、サイト全体の統一感を担保する軸は必要ですよね。
その点では、最初に制作したキャッチコピーがそのまま共通の軸として機能しました。メッセージの根底にあるコンセプトが1行の言葉として定まることで、複数のライターが関わる場合にも「このトーンに揃える」という共通理解が生まれます。厳密なレギュレーションを作り込むよりも、核心をついた1行のメインコピーが存在する方が、実際にははるかに機能します——今もそのように考えています。
社長メッセージとキャッチコピーの書き分け
── コンテンツごとの書き分けについてはどうですか?
「採用キャッチコピー」と「社長から学生へのメッセージ」の書き分けが、わかりやすい事例だと思います。社長へのリモートインタビューでは、大変饒舌にお話しいただき、幅広いテーマで深いお話を伺うことができました。
── インタビュー中に、話を引き出すために意識されていることはありますか?
積極的な自己開示を心がけています。たとえば美容の話題であれば、記事には直接使えない自分自身の経験——「先日、韓国に行ったときに……」といった話を自ら持ち出すことがあります。準備された回答ではなく、よりフラットな言葉を引き出したいという意図があります。基本的には、インタビューを雑談の延長として捉えて臨んでいます。
── ただ、雑談では素材が散在しやすくなりますね。インタビュー中には、話題の流れはどのようにコントロールを?
実は私は、インタビュー中にあまり積極的に話題を誘導することはしません。社長がご自身の言葉をしっかり持っておられ、ひとつの質問に対して15ほどの言葉が返ってくるほど積極的にお話になりますから。15のうち5ほどは厳密には回答ではないこともあります。ただ、そのような素材の中にも価値ある言葉は含まれています。気持ちよく話していただくことを優先して、雑多な素材の中から必要なものを執筆段階で取捨選択・再構成していくスタイルです。
── 取材素材をあとで分解・組み替えながら執筆するのですね。私はインタビュー中にある程度構成をまとめ、取材対象者とも方向性をすり合わせてしまうタイプなので、対照的なアプローチですから、少し意外でした。
ライターによってスタイルは異なるようですね。私の場合は、文字起こしの後、素材が揃った段階で方針を確定し、「これはトピックAの素材、これはBの素材、これはAとBをつなぐ素材」という形で整理した上で、一本の筋道を構築していきます。今回はクライアントからタイトル以外の構成も含めて裁量を与えていただいていたので、全体設計から着手することができました。
同一サイト内における各テキストの役割設計
── 記事の構成はどのようなものになったのでしょうか。
まず前提として、サイトを訪れた全員が目にするキャッチコピーと、下層ページに置かれる社長メッセージとでは、果たすべき役割が異なります。社長メッセージにおいて、読者に何を理解させることが最も効果的かを検討した結果、会社の姿勢として「変わらないもの」と「変わるもの」という2軸の対比を構成の軸に据えることにしました。
「人が美しくなりたいという願いは古代エジプトの時代から変わらない。しかし、その願いを叶える手法は変化し続けている」という対比を中心に据え、変わらない想いに寄り添い続けるためには自らも変化し続けることが必要であり、だからこそ変化に挑める仲間を求めている——という流れで着地させました。
この構成を考えるにあたって意識したのが、クライアントのD2Cというビジネスモデルです。D2Cにおいてはマーケティング機能が特に重要であり、美容分野ではトレンドの変化が非常に速い。その点から「変化」をテーマとすることが、業態との親和性が高いと判断しました。
── 書き分けという観点で言えば、「明日」や「輝く」といった、キャッチコピーで使った言葉は社長メッセージでは使っていませんね。
はい。意図的に使いませんでした。そこが重要なポイントだと考えています。社長メッセージでキャッチコピーと同じ言葉を安易に用いたくなる場面はありますが、あえて「変化」という別の切り口で構成することで、同じ方向性を共有しながらも異なる見え方に演出できます。この考え方は、他のコンテンツを書き分ける際にも応用できる原則だと思っています。
