話してくれた人:
STSデジタル・ライター 祢津
1983年生。経済紙記者を経てSTSデジタル所属。これまでに300名以上の経営者へ取材を行ってきた。
聞き手:STSデジタル・ライター ウメザワ マサユキ
社長取材のコツ
── STSデジタルのコラムです。今回のテーマは、ライターの視点で見る「社長インタビュー取材」です。
いいテーマですね。ちょうど新社長就任の時期でもありますし、コーポレートサイトや採用サイトでも社長メッセージは頻繁に活用されます。一方で、その取材をどう進めるのかについて聞かれる機会は、意外に多くありません。
── まずは基本的なところから教えてください。
事前に下調べを行い、その会社のサイト全体の方向性を踏まえて話を聞く、という点は、相手が誰であっても変わりません。これは相手に失礼のないようにするための、いわば最低限の礼儀でもあります。
そのうえで最も重要なのは、「そのサイトで何を表現しようとしているのか」というコンセプトを正確に捉えることです。多忙な社長にあえて取材の時間を取ってもらう以上、そこには必ず理由があります。多くの場合、求められているのはトップメッセージです。経営層と現場では見えている景色が異なる、という前提があるからこそ、社長に取材を依頼するわけです。
新入社員と10年目の社員でも見えているものは異なりますし、社長という立場には、社長にしか語れないことがあります。さらに、社長の発言には他の誰とも異なる重みがあります。その一言で会社が動く、そうした種類の言葉を持つ立場の方々だからです。
── つまり、取材方法は立場ごとに変わるということですね。
その通りです。新卒社員には新卒社員の視点、3年目には3年目の視点、部長クラスには部長クラスの視点、社長には社長の視点があります。いずれもそれぞれに固有性があります。
では、社長インタビューの何が特別なのかというと、さまざまな要素がありますが、はっきり言えるのは「ビジョンを語れる」という点です。ビジョンを正面から語れるのは、経営者だけです。他のポジションの方がビジョンを語ろうとすると、どうしても抽象的になりがちです。しかし社長が語れば、それはそのまま会社の意思になります。だからこそ、経営者への取材では、ビジョンは必ず聞くべき基本の質問になるのです。
社長には5タイプある
── 目的が何であれ、「ビジョン」を聞く取材になるということですね。MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)とも言いますし、経営理念やパーパスに近い話でもありますよね。
そうです。そして、「御社のビジョンは何ですか?」という質問は、実はとてつもなく深い。
── 確かに、語り方はさまざまありそうですね。会社の事業との関係や、社員との関係、あるいは社長ご自身の思いなども含まれそうです。
その通りです。実際にインタビューしてみると、社長ごとに語り方はまったく異なります。なぜここまで違うのか? 何か一定のパターンが見出せないか? と、ライターとして考えていた時期がありました。そして一つの仮説にたどり着いたんです。
それは、ビジョンに対する立ち位置は、社長のタイプによって大きく異なるのではないか、ということです。
── 社長のタイプ、ですか?
そうです。これはあくまで私個人の仮説ですが、社長には5つのタイプがあると考えています。何だと思いますか。
── 一族経営かどうか、といった話でしょうか?
鋭いですね。まさにそこは大きなポイントです。つまり、その人がどのような経緯を経て社長になったのか。就任の背景には大きく5つのパターンがあると考えています。「創業者」、「創業家の後継者」、「社内昇格」、「親会社・グループ会社からの出向型就任」、そして「外部招聘のプロ経営者」です。
── それぞれのタイプによって、ビジョンの語り方が異なる、ということですか?
もちろん、実際には一つの型に完全には当てはまらないケースもあります。ただ、仮説として持っておくことで、「当初はパターン1だと思っていたが、4の要素もある」といった形で話を深めやすくなるのです。
社長の側から見ても、自分がどういう立場で経営しているかを理解している相手であれば、話が早い。すると、本当に大事な話に時間を使ってもらえる可能性が高まります。
しかもこの情報は、会社概要ページで社長の名前を確認し、過去のインタビュー記事やプレスリリース、有価証券報告書などを見れば、質問をしなくても外部情報からある程度仮説を立てることができます。
「創業者」と「創業家」
── 興味深いですね。では一つずつ聞いていきましょう。まずは「創業者」から。
創業社長の特徴は、自分の考えそのものがビジョンだということです。多くの場合、株主でもあるので、自分のお金、自分のリソース、自分の思いで会社をつくっています。つまり、社長と会社が文字どおり一体化している。株主総会でも最も発言力があるのは社長ですから、社長がGOを出せば会社もGOになるわけです。
つまりは個人の歴史と会社のビジョンが一本の線でつながっているのが創業社長です。一般的な社長インタビューでは、これが最も典型的なパターンかもしれません。だからこそ、その人がなぜこの事業を始めたのか、どのような景色を見てきたのかを外部メディアの取材記事や本人のブログ、SNSで丁寧に調べておくほど、取材の質は大きく高まります。
── 次は「創業家(後継ぎ)」ですね。
創業者の配偶者、子ども、親族などがこれにあたります。後継者は多くの場合、株を持っています。つまり、発言力が非常に強く、創業者の思いも資産も受け継いでいます。よく「ドラ息子が社長になって大変」といった話がありますが、実際にはそうしたケースはかなり少ない印象です。むしろ外部企業で修業を積んだうえで、会社を継ぐために戻ってきたという方が多い。非常に勉強熱心で、姿勢の低い方が多いですね。
また、「自分はつなぎ役だ」という意識を強く持っている方も多いです。受け継いだものを毀損せず、次の世代へ渡す。その使命感を背負っている人たちです。だからこそ、その重みを理解して話を聞きに行くかどうかで、取材の深さは大きく変わります。
── 先代が会長に就いているパターンもありますよね。
流石ですね。非常に重要なポイントです。会社概要を見て、会長がいるかどうかは確認しておくべきです。また会長が代表権を持っているかどうかで、影響力も大きく変わりますし、親族全体に株が分散している場合も多い。創業家出身の社長には、気を配るべきステークホルダーが数多く存在します。
加えて、現場からの信頼も得なければなりません。創業社長の場合、現場は同志であり、苦楽をともにしてきた仲間であることが多いですが、後継者の場合はそうとは限りません。現場を束ねている部長クラスが、先代の片腕だったというケースもあります。そこに息子や娘が入ってくると、摩擦が起きやすいですし、組織を刷新する際にも相当な配慮が求められます。
つまり、発言力は強い一方で、気を遣う相手も多い。そうした複雑な立場で経営している方なのだと想像しながら取材に臨むことで、取材はより立体的になります。
現場を語る「社内昇格」タイプ
── では「社内昇格」のパターンは?
現場で実績を上げて信頼を勝ち取り、社長に就任したタイプです。直近で取材した社長もこのタイプで、東京と大阪に拠点がある会社において、東京の営業部を率いていた方が営業部長から取締役を経て、新社長に就任されたというケースでした。
このタイプの社長のビジョンは、当然ながら「事業・現場寄り」になります。自社商品の強み、競合、顧客といったテーマについて、非常に具体的かつ熱意をもって語ることができます。長年その現場で積み上げてきた経験があるからです。その蓄積をきちんと引き出せるかどうかが、取材のクオリティを左右します。したがって、事前準備ではビジネスモデルを調べることに重点を置くべきです。
── 創業者の場合は個人の歴史を深く調べるべきだけれど、社内昇格では角度が異なるということですね。
そうです。社内昇格の場合、「複雑な家庭環境を抱え、社会を変えるため起業家に」といった個人史が経営メッセージの核になることは、ほぼありません。
── 創業者であれば、それが核になり得ますよね。
ええ、なり得ます。ただ、社内昇格の場合は「現場を知り尽くしたビジネスの代表者」として向き合うべきです。「自分たちはこういう技術を持ち、こういう顧客と向き合ってきた。だから今後はこういう会社を目指す」というロジックが、非常にリアルに語られます。現場の思いを最も代弁できるのが、この立場の社長の強みです。
「親会社からの出向型」と「プロ経営者」
── 「親会社・グループ会社から来た社長」は、率直に言って質問が難しそうに思いました。現場のことにもそこまで詳しくなさそうですし、個人の話も会社と結びつきにくく、抽象的な社会貢献の話に終始してしまいそうで……。
あっ、社会貢献……近いですね。
── 当たりですか(笑)?
社会貢献が抽象的なトピックかどうかは別の議論として置いておきますが(笑)、このタイプの社長が強く意識しているのは、まさに「親会社のこと」です。自分の会社を、親会社の中の一つの子会社として強く捉えているケースが多い。商社などでは特に顕著です。M&Aであれ新設であれ、「親会社が何を実現したいのか」に対して、「子会社として何を担うのか」という関係性で動いています。
── なるほど。
そのため、取材前には親会社のコーポレートサイトやグループビジョン、中期経営計画などを必ず読んでおく必要があります。「あなた自身が経営者として成し遂げたいことは何ですか?」という問いは、あまり適しません。むしろ、「親会社のこの方針に対して、御社はどのようなシナジーを発揮し、どのようなソリューションを提供できるのか」という軸で質問を設計すべきです。そこが、社長自身も最も真剣に考えているテーマだからです。……と、私は考えています。
また、大企業では、子会社社長への就任が出世コースの一環になっていることも珍しくありません。数年後には本体に戻り、常務や専務に就くといったキャリアパスです。つまり、その会社自体に長期的にコミットするというより、任期中にミッションを必達する、という覚悟で臨んでいるケースが多い。そこを理解すると、取材の切り口も変わってきます。
── ある意味、創業社長とは対極ですね。では最後に「プロ経営者」についてお願いします。
完全に社外から招聘された、経営のプロです。経営コンサルタント出身者も多く、任期が3年、5年と決まっている契約ベースの就任も少なくありません。そのため「親会社からの出向型」社長と同じく、もしくはそれ以上に「在任中に何を成し遂げるか」に対して極めてシビアに向き合い、コミットします。
多くの場合、プロ経営者が就任するパターンは2つで、「株主が代々プロ経営者を雇ってきた」あるいは「社内では達成が難しいと思われる課題がある」からです。まずその背景を調べるとミッションが浮かび上がることが多い。
ビジョンを語る際の特徴は、客観的・中立的なアナリスティックな立場を取ることです。たとえば「製造業界のこの領域は現在こういう状況にあり、海外にはこうしたプレイヤーがいて、国内にはこうした競合がいる。その中で当社はこのポジションを目指す」といった話を非常に得意とします。しかも、その内容を株主にプレゼンテーションして採用されているわけですから、話の構成力も非常に高い。それ自体が仕事でもありますから。
── では、個人の話はあまり出てこない?
いえ、むしろ個人の話も非常に明快に語れます。「あの会社でこれを立て直し、次にこの会社でこう改善した」といった、自身の経営キャリアについて誇りを持って語る方が多いですね。その経営哲学が、また面白い。どんな業種でも、自分のやり方で結果を出してきた人の言葉には独特の説得力があります。書籍を出している方が多いのも、そのためだと思います。
── プロ経営者にも、それぞれ得意な業界はあるのでしょうか。
そこもさまざまです。製造業や物流に特化したプロ経営者は業界に精通していて、かつて競合企業の社長を務めていたというケースもあります。業界団体に人脈があることもあります。一方で、「業界のことは詳しくないが、売上を伸ばす方法は熟知している」というタイプが選ばれることもあります。そうした方は、顧客基盤に対する深い知見を持っていることが多いですね。「どの会社でも自分なら成長させられる」というオールラウンダー型は、印象としては外資系企業やIT業界に多いように感じます。
社外のライターにお金を払う意味はどこにあるのか
── この5つのパターンを事前に把握しているかどうかで、取材の充実度が大きく変わるということですね。
そうです。しかも社長は本当に多忙です。いただける時間は、長くても1時間です。まれに創業社長が熱を帯びて3時間話し続けてくださる、という幸運な取材もありますが、それはあくまで例外です。
基本的には分刻みのスケジュールで動いている方々です。その貴重な時間の中で必要なことを聞くためには、「どの社長タイプか」という仮説と、どこを深掘りするべきかという方向性を事前に固めておく必要があります。そうすることで、「限られた時間の中で、伝えたいことをきちんと話せた」という実感につながります。
── 取材前の情報収集は、どのように行っているのですか。
コーポレートサイトは当然として、とても学びになるのは、取材者が属する業界特化型のメディアです。建設業界のメディアやタクシー業界のメディアなどですが、これは専門用語が多く、ふだん読むと正直かなり疲れる。ただ、社長取材の前となるとライターとして集中力が高まるので真剣に読み込めます。そうしたメディアで得た知識を取材に持ち込むと、社長側も一から説明する必要がなくなるため、話がより深くなります。
── 最後に、他に押さえておくべきことはありますか?
私がインタビュー取材を続ける中で常に考えているのは、「わざわざ外部のライターにお金と時間をかけてよかった」と思ってもらいたい、ということです。結局のところ、話を聞いて文章を書くという行為だけを切り出せば、日本語ができれば誰でもできるとも言えてしまいます。生成AIでも、上手にこなせる時代です。だからこそ、できる限りこの仕事の価値について考える必要があります。
その意味で、「誰が費用を出して依頼してきたのか」も非常に重要です。経営企画であれば、株主向けの社会発信かもしれません。広報であれば、用語の正確性や対外的な丁寧さが重視されます。人事であれば、求職者に向けた未来志向のメッセージが求められるでしょう。稀にマーケティング部門から、「社長に顧客向けメッセージを語ってもらいたい」という依頼が来ることもあります。
つまり、「社長のタイプ」と「依頼した部署のミッション」。この2つを掛け合わせることで、最適な取材設計はある程度導き出せるのです。
あとは本番で、仮説をどれだけ超える話を引き出せるかです。インタビュー取材は、相手が相手だけに、こちらも本気で想像力を働かせなければなりません。ただ、その分、わずか1時間の中で「この人はこういう景色を見てきたのか」と理解できる瞬間があります。その面白さがあるからこそ、インタビューという仕事はやめられないんですよ。
