先日、クライアントでもある帝国ホテルさんがメディア向けに開催したパーティーにご招待いただいた。
これは、今月をもって営業を終えて建て替えに入るタワー館を記念して催されたもので、我々のようなWebメディア以外にも旅行誌や新聞社など、関わりのある多くの企業が参加していた。
帝国ホテルのタワー館は2024年度中に着工し、サービスアパートメント、賃貸住宅、オフィス、商業施設機能を備える複合ビルの新タワー館として2030年度に開業を予定。また、本館は2030年度まで現在の営業を続けた後、タワー館と入れ違いで建て替えに入り、2036年度に単独棟のグランドホテルとしての開業を予定している。
2024~2036年。
実に12年をかけた建て替え計画になる。
日本のホテル御三家の一角である帝国ホテル相手に何をと思われるかもしれないが、12年間、もっと言えば建て替えを終えたさらに先の未来まで、経営や組織運営の見通しが立っているというのは凄まじいことだ。
そこで今回は、会社が成長していく上で欠かすことのできない組織としてのビジョンの重要性について考えた。
『キングダム 運命の炎』を観て
最近、漫画の実写化としても話題になっている『キングダム 運命の炎』を観る機会があった。
私は原作を見ていないのだが、とても人気のある作品らしい。
一番興味が沸いたのは、ストーリーのなかで、特殊百人隊(陣形に加わらない100人で構成された遊撃部隊)の隊長に任命された主人公の信は、1本の矢にならなければいけないということを口にする場面だ。
百人隊は、年齢や職業、民族などもバラバラな村人たちの集まり。
当然、考え方や価値観、追い求めるものはそれぞれ異なっている。
信はそんな百人隊の部下たちに、自分たちは”1本の矢”にならなければいけないと説く。
家族のため、手柄のため、恋愛の成就のため、個々に目的は違うがこのミッションに失敗すれば、全員が死に、故郷の村も全滅させられると。
つまり目の前の敵を倒さないと、だれの願いも叶わないと。
私はこの場面を見てハッと思った。
立場や状況や欲望が違う人間が集まって組織(部隊)ができたとき、掲げる目的を1つにして皆で同じ方向を向くことで個々の実力の単純な足し算を越えた大きな力を生み出すことができるようになるのだと。
”1本の矢”であるために
会社は、社員それぞれの人生や生活があるなかで会社の進む方向性とそれぞれが目指す方向性を合わせないといけない集団だ。
そうでなければ、働く時間は人生にとって、ただ生活費を稼ぐ程度の意味しか持たないだけの時間になってしまうだろう。
社長の私ですら、オーナー(親会社)から大きな権限を頂いている身にもかかわらず本当にやってられない!という気持ちにたまになるのだから、社員たちは尚更だろう。
”仕事だから””生活のために”という義務感だけで動くには、1日8時間もの労働はあまりにも辛くもったいなさすぎる。
もちろん、会社の進む道に個人の目標を強制的に同調させることは誰にもできない。
たとえば自分の目標や夢を考え抜いた結果、それが会社の目標とはどうしても重ねることができないという結論に至ることもあるだろう。
そうなるともちろん会社としては寂しいし手痛いが、一緒に働いてきた1人の人間として、私はその人の自己実現を応援したいと思う。
いずれにせよ、目標や夢は自分で決めなければ意味がない。
自分で決めたからこそ、夢や目標はモチベーションにも直結する。
この『自分で決めたんだから』が苦しい局面でも諦めず、粘り強く踏ん張る最後の力になってくれる。
自分の人生は自分で決めるべきで、充実感とはそういう状況下でしか生まれない。
重なる道であれば一緒に進んでいく手助けができることもあるかもしれないが、この”決める”部分ばかりは経営者である私ができるサポートはあまりない。
唯一できるのは、会社の進むべき道、登るべき山を示し続けることのみだろう。
たとえば朝礼でもいいし、会議の場でもいい。このコラムでもいい。
とにかく会社が進む先を発信し、社員たちに少しでも理解してもらう。
会社が登ろうとしている山が分かっていなければ、社員たちも自分の目標や夢をどう重ねていけばいいかが分からなくなってしまう。
人生の目標や夢を見つけるのは非常に難しい。
しかし、置かれた環境や状況から目標や夢を設定するのは、ゼロから目標や夢を見つけ出すよりは簡単だ。
それぞれが目標や夢を設定できるようにビジョンは存在する。
恥ずかしながら、会社がビジョンを掲げる意味を映画に教えられた・・・。
社員たちが1人でも多く目標や夢が設定できるよう、そして働くことが人生の充実感により多く貢献するものになるよう願いたい。
◇◇◇
冒頭に、帝国ホテルの建て替え計画の話をした。
帝国ホテルは理念にこう掲げている。
”日本の代表ホテルであり、国際的ベストホテルを目指す”
そのビジョンが決して揺るがないからこそ、そして働く人たち1人ひとりが帝国ホテルというブランドへの誇りを持っているからこそ、12年という長期的な建て替え計画に乗り出し、その後の未来を100年、200年という単位で見据えることができるのだろう。
もちろんホテル業界とWebマーケティング業界では築き上げてきた歴史や伝統が大きく異なるのだから、同じ土俵で語るのは難しいのかもしれない。
しかし日本にある一企業として、未来に向かうその姿勢で遅れを取るわけにはいかない。